タクシー乗り場での出来事

金曜日の夜、俺は最終の新幹線で博多から無事に帰還した。最寄りの駅までは。
駅から家まではおよそ2.7km。歩けない距離ではないが、歩きたくない距離でもある。
事前に妻から「今日は疲れた」メールをもらっていたので、妻のコルトは当てにせず、タクシーを選択した。
タクシー乗り場に行くと、8人待ちだった。「まあ、少し待てば乗れるだろう」この考えが甘かった。
このタクシー乗り場、流れが異常に悪い。駅裏の乗り場というのもあるかもしれないが、感覚的には10分に1台ペース。
「俺の順番までタクシーの運ちゃんはお仕事続けてくれるだろうか?」暫くタクシーが来ないと、このまま朝まで駅に置き去りにされないか、凄く不安になった。
それだけではない。俺の前に並んでいるおっさんが、異常に酒臭い。
まだ前を向いて並んでくれている内は良かったが、あまりにタクシーが来ないので、ちょくちょく後ろを向く様になった。
後ろを向かれた瞬間、俺も「タクシーまだかな?」という振りをして、後ろを向いた。とてもじゃないが、耐えられない。
そのおっさんの前には、20代の女子が並んでいた。さぞかし臭いだろうと思ったが、スマホを眺めながら平然と並んでいた。間違いなく口呼吸だろう。
ただ、そのおっさんは酒臭いだけで、周りの人に絡んだりゲロ吐いたりは無かったのは不幸中の幸いだった。
そうこうしている内に、お腹が痛くなってきた。ここでおならをすると、目の前のおっさんの事をとやかく言えなくなってしまう。
俺はおっさんの酒臭さと便意と戦いながら、とうとう妻にメールした。限界だった。
優しい妻は、暫くしたらコルトで迎えに来てくれた。
妻が来る頃には、スマホ女子も酒臭いおっさんもタクシーに乗って居なくなっていた。
次の順番は俺だったが、妻のコルトの方が先に来た。
もし先にタクシーが来たとしても、それは結果論でしかない。俺は自分に言い聞かせながら、コルトに乗って帰宅した。
俺の後ろには、あと二人並んでいた。無事帰れたのか、朝まで駅に置き去りにされたのか、知る由もない。